「SMASH」を足元から支えている靴屋さん

「1週間に8公演もの舞台をこなし、踊り動く舞台では、靴は本当に大切。また、テレビドラマや映画の撮影も、何度も同じシーンを撮り直すと何十時間という間同じ靴を履いていなくてはならないからね」と、しみじみ語るジョンさん。実は、彼自身も、ブロードウェイの舞台に立つことを夢見て大学でもシアターを専攻し、プロの俳優を目指していたそう。シアターの勉強をした経験があるからこそ、例えばスタイリストから「今回は、こういう年代の設定のドラマなんだけど」と言われれば、どんなデザインの靴がその時代に流行っていたのかなど必要な知識にも応対できるそうです。スタイリスト達にとって、とても頼れる存在のジョンさん。 芝居などで使う靴は、その舞台設定の年代によって、靴のパーツを付け替えたり、色を変えたり、デザインを変えたりも出来るそう!
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WORDTONEには数十社の取引先の靴がありますが、どこのメーカーの靴も、何十時間履いていても決して足が痛くならないというお炭付き。なので、撮影や舞台にはもってこいの靴だそう。ジョンさんも、ここで扱っている靴があまりにも履き易いため、外に履いても使えるように靴の底を革などに張り替えて、毎日履いていらっしゃるそうですよ!
また、このお店で扱っているダンスシューズの特色は、ぱっと見て、それがダンスシューズだと判らないこと。そして、豊富にデザインがあること。紳士もののダンスシューズも、まさしく普段履く革靴のよう。それに凄くおしゃれなデザイン!女性用の靴も、その種類の多さに圧倒されてしまいます。「SMASH」で使われているのも、まさにそんな特色を持つWORLDTONE の靴だからこそ。「『SMASH』では、普通のシーンから、突然、踊りのシーンになるというカット割りがとても多いけど、そのシーンを撮る時、靴を履き替える必要がなくなるでしょ」というジョンさんの説明を聞き、「なるほど、確かに!!」と感動してしまいました。
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履き易さに加え、普通の靴のように見えるというWORLDTONE が取り扱っているダンスシューズ!エンターテインメント界のセレブリティが放っておくわけがありませんね。
例えば、ここの靴の大フアンだという女優のライザ・ミネリさん。彼女は、自身のコンサートで履く靴を探しに何度も来店されているそうですよ。その他にも、ジェニファー・ロペスさん、ビックマン・ダイクさんなどなど、ここのお店の靴を利用しているセレブは大勢いらっしゃるそうです。
店内では、レッド・カーペット用の高いヒール・コーナーもありました。高いヒールであっても、美しく見えるだけでなく、その履き心地の良さはローヒールのダンスシューズに負けず劣らずだとか!

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更に、ここのお店で扱っているダンスシューズは、ジャズダンスはもちろん、社交ダンス、サルサ、メレンゲ、ワルツ,  タンゴ、スイング, チャチャチャなどで履く靴が揃っています。そして、とても便利なのは、自分の欲しいと思った靴を1足から購入することができ、しかもサイズのストックも豊富!

ショップの周辺にはダンス教室も多く、撮影の当日も、「これから、初めてサルサのクラスを取るのだけど、どの靴がいいかしら?」と、立ち寄って、店員さんに相談している人達がたくさんいらっしゃいました。そして、購入する前に、実際に履いてみてサイズや履き心地を試せるよう、お店の中央にはダンス教室のフロアーのような素材で出来たエリアがあり、そこで実際に何度もステップを踏んだりターンをしたりできるのです。至れり尽くせりですね。

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色々と、楽しい靴を見せて頂き、色々な種類の靴の説明を丁寧にしてくださいました、エンターテインメント用の靴を担当しているジョンさん。彼に、ここで働いていて、忘れられないエピソードはありますか?と訪ねたところ、こんな話を聞くことができました。ずっとレッスン用の靴を買いに来てくれていた女優さんが、ある日、「ブロードウェイのアンサンブル役に付けたの!」と店に寄ってくれたので、彼が心を込めてその舞台で使う靴のフィッテングをした。そしたらこの間、その彼女が数年ぶりにお店を訪ねてきてくれて、これからオープンするブロードウェイ・ミュージカル「フラッシュ・ダンス」で自分がタイトルロール(主役)を演じることになった、と報告をしてくれたそうです。「このように、人との素晴らしい出会いがあるから、だから僕は、ずっとWORLDTONEで、これからもたくさんのショーを支えていきたい」と、話して下さいました。ジョンさんは、その彼女の俳優としての人生を、まさに足元から支え、歩く道筋を見守ってこられたのですね。とっても素敵なエピソードをありがとうございました!

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舞台は、その舞台を企画し資金調達するプロデューサーがいて、舞台の上で演じる俳優たちがいて、曲や歌詞を書く人、音楽を担当する人、舞台装置を考える人、舞台転換をする人、小道具を用意する人、スポットを当てる人、衣装を担当する人、カツラを作る人、そして、舞台の上で、役者たちが思いっきり動けるよう"靴"を用意する人と、数えきれないほどの役割があります。その役割が全部一つにまとまって、1つの"舞台"が生まれるのですね。

私たちが観客として観劇に行く1つの舞台。それが生まれるまでに、更にたくさんのショートストーリーが舞台裏では生まれている...そう考えると、感動してきます。

そして、そのドラマの裏側を描いたのが「SMASH」!スピルバーグさんの目の付けどころは流石に凄い(笑)。
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「石を投げれば、役者か舞台関係者にぶつかる」とまで言われている世界屈指の舞台都市であるニューヨークから、ブロードウェイを支えている人々の姿を、ほんの少しですがコラムを通じてご紹介させて頂きました。

「SMASH」をご覧になりながら、ブロードウェイの舞台を様々な立場でたくさんの人たちが支えていることを思い出して頂けたら嬉しいです。

そして、まだ本場のブロードウェイ・ミュージカルをご観劇された事がない方は、次にニューヨークにいらしたら、是非、劇場に足を運び、夢の世界にどっぷりと浸ってみてください。

そして、その時もし良かったら、役者さんたちの足元で、一生懸命縁の下の力もちで頑張っている"靴"にもご注目下さいね。

「その小さな靴のひとつひとつにも、たくさんのドラマが詰まっているかも知れませんから・・・。」
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全米紙 ニューヨークタイムズで取上げられた記事:
New York Times (english only)

「SMASH」を足元から支えている靴屋さん


「SMASH」ファンの皆様、ニューヨークからこんにちは!今、ブロードウエイでは、 6月9日にトニー賞の発表があり、その受賞作品の話題で盛り上がっています! 今シーズンのミュージカル部門では、「キンキーブーツ」が圧巻の6部門を受賞した り、「シンデレラ」の再演が、 ミュージカル衣装デザイン賞を受賞したりと、 偶然にも「靴」にまつわるミュージカルが2作品も、色々な部門でノミネート されて、そして受賞をしました!

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「キンキーブーツ」の"あらすじ"は、急死した父親から、イギリスの伝統高き靴製造工場を引き継ぐことになった主人公が、膨れ上がっていた工場の借金を返済すべくニッチ市場で極めようと、ドラッグ・クイーン用のキンキーなブーツを製造しはじめるという抱腹絶倒のミュージカル!舞台中のファッションショーのシーンで使われるショッキング・レッドのスパンコールがド派手な膝上まである長いブーツ(写真参照)が、公演のポスターにもなっていて、今、ニューヨークの街のあらゆるところに貼られています。そして、もう一方の「シンデレラ」は、城の階段を駆け下りる時に脱げてしまったガラスの靴が、王子様との再会のきっかけとなり、ハッピーエンドになるという、世界的に親しまれている童話の原作を1985年にミュージカル化したもののリバイバル。このように、どちらも"靴"が、ドラマの大切な"キー"を握っています♫

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そこで、ブロードウェイの裏側をあらゆる角度からお届けしているこのコラム、今回は、この"靴ブーム"(勝手に認定!)にちなんで、「SMASH」をはじめ、アメリカでヒットを飛ばしているテレビドラマや、数々のブロードウェイ・ミュージカルをまさに「足元から支えている」ダンスシューズの専門店をご紹介したいと思います。


靴の美術館のような「WORLDTONE」(ワールドトーン)

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ご紹介しますダンスシューズ専門店WORLDTONEは、1969年に、ニューヨークのチェルシー地区で産声をあげました。ご両親が立ち上げたこのお店の歴史について話して下さったのは、この会社の二代目の社長、レイ二・スピアさん(Ms.Lani Spear)。

WORLDTONEは、ニューヨークに本社があり、ブロードウェイの舞台やテレビドラマ、そして、ダンス教室などに多く利用されています。2011年には、ハリウッド映画の靴のオーダーが多いことから、西海岸のロサンゼルスにも支店をオープンさせました。

1969年にショップを始めた頃のWORLDTONEは、はじめはダンスシューズを扱うお店ではなく、世界のフォークダンスの音楽を扱うレーベル会社だったそうです。

小学校の教員だったレイ二さんのお父様が、必須科目のフォークダンスを生徒に教えるためフォークダンスの大会に出た時に、プロの講師だったお母様と出会いました。はじめは学校で教える目的だけだったのに、イスラエル、アメリカ、日本、ルーマニア等世界各国に存在する伝承された踊りであるフォークダンスの世界にすっかり魅了されたお父様。フォークダンスがとても盛んなイスラエルご出身のお母様とともに、世界中からフォークダンスの曲を集めて、自社レーベルを作ろうとWORLD TONE(意味は「世界の音色」)という会社を立ち上げたそうです。

フォークダンスの靴を扱うようになったのは、フォークダンスを習っている大勢の人たちから、普通の靴では長時間踊ると足が疲れるのでどうしたら良いだろうと、レイ二さんのお父様が相談を受けたことから始まりました。疲れず踊りやすい靴のメーカーを探し当て、やり取りをするうちに、靴の流通ルートが自然と広がっていったそうです。

80年代の終わり頃から、レコード市場の需要が急激に減り、音楽のレーベルの経営にも陰りが見え始めました。ところがちょうどその頃、1987年に製作され、世界で大ヒットを飛ばした映画『ダーティ・ダンシング』がWORLDTONE の運命を変えたのです。映画『ダーティ・ダンシング』は、家族と共に夏休みを過ごすティーン・エイジャーの女の子が、父に逆らってダンスのインストラクターと恋に落ちる青春映画。本編の3分の1 がほぼダンスシーンを占めているこの映画が空前のヒットとなったため、全米にダンスブームが訪れたのです。多くのダンスシーンが、マンボ(ダーティダンス)やサルサなどペアで踊る踊りだったため、主人公のベビーとジョニーが踊るペアダンスに憧れて習い始める人たちが後を絶たず、ダンスシューズの利用者が急倍したのだそう。そのダンスブームに乗って、WORLDTONEは事業を拡大。業界の間でも、ダンスシューズの種類をたくさん扱う会社として知名度を確立していったのです。


「SMASH」も、シーズン1からWORLDTONEのシューズを利用しています

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現在、社長のレイ二さんはロサンゼルス支社にいらっしゃるため、インタビューはお電話で、そして、ニューヨークのショップでは、ブロードウェイ・ミュージカルで使われている靴を総括して管理している責任者のジョンさんが、私たちを出迎えてくださいました。このジョンさんこそが、「SMASH」で使われている靴の管理責任者!「SMASH」の撮影秘話をはじめ、靴のお話を色々として下さいました。

WORLDTONEは、前住所のチェルシー地区で、60年間もの間親しまれてきましたが、新築の高層ビル建築が進むことになったため、長年慣れ親しんでいた土地を離れることになりました。レイ二さんが子供の頃から馴れ親しみ、今は他界した御両親との思い出の詰まった場所だけに、そこからの移動は心情的にもかなり辛かったそう。そんな苦境を乗り越えて、2年前、現在のブロードウェイ劇場街にショップを構えたのです。


エレベーターに乗って2階で降り、ドアが開くと、目の前に広がるのは、正に「靴!!靴!!靴!!」。棚にディスプレイされている靴の数だけでも、その数実に500足以上(New York Times社の調査より) だというから驚きです。

燦々と陽が入る明るい店内には、今にも軽やかに踊り出しそうな、ありとあらゆる形と色のダンスシューズがいっぱい。同行していたカメラマンと共に思わず、「わぁ~う♪」と、歓声の声を上げてしまいました。

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そして、店内でもひときわ目立つ場所の、スポットを浴びた棚に入っている真白い私好みのショートブーツを発見!「こんなショートブーツが欲しいなぁ~」なんて見とれていたら、ん?ブーツにサインが!すると、ジョンさんが背後で「メーガン・ヒルティが、『SMASH」 で履いたブーツだよ」と説明して下さいました。

そうです。このサインは、まぎれもなくメーガン。ここでもまた、「わぁ~~う!」と、雄叫び状態の私でした。

シーズン1で、アイヴィーが、タイムズスクエアでエンジェルの格好で踊ったあのシーン!写真をご覧頂いても、ほら、彼女はまさに"このブーツ"を履いているでしょ!?


ジョンさんに経緯を伺いました。「SMASH」撮影用に、彼女の靴のジャスト・サイズで1組、そして、忙殺的なスケジュールの渦中で靴を合わせる時間が取れなかった彼女のために、念のためもう1組、半サイズ上でこのブーツを造り、スタイリストさんに2組、撮影現場に持って行ってもらったとのこと。そして彼女は、予備で持っていった方のブーツに「ありがとう、WORLDTONE」と、スタッフの思いやりのある配慮を讃え、言葉に記して、サインをして下さったそうです。

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他にも、ミュージカル「オペラ座の怪人」の舞踏会のシーンで履かれているクラシックなデザインの靴、上演中の「ジャージーボーイズ」や「ロック・オブ・エイジズ」、「アメリカン・イディオット」や「アダムスファミリー」などなど、WORLDTONEが扱っている靴は、多くのブロードウェイ・ミュージカルで大活躍をしています。店内に飾られているたくさんのポスターには、出演者たちによるWORLDTONE宛ての感謝の言葉が記されていました。






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WORLDTONE HP:http://www.worldtonedance.com/Home.html


後半に続く・・・。

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